2012/05/07 Category : カ行 Gaspard et Robinson 1990 トニー・ガトリフ監督作品「ガスパール 〜君と過ごした季節」について 南仏、プロヴァンス。 中年男のガスパールとロバンソンは無二の親友同志。 共に失業者の2人は海辺で廃屋を改造した軽食堂を開くのが夢だった。 ある日、ロバンソンは海辺に家族から置き去りにされてしまった ジャンヌという老女と会い、家に連れてきた。 彼は幼い頃、母親に捨てられた過去があり、 哀れなものを放っておけない性分だった。 一方、妻に捨てられて以来、家族の絆を拒否していたガスパールだったが、 10年連れ添った妻に逃げられ未練タラタラで、 夜になると飲んだくれて思い出のレコードをかけては、 海に向かって妻の名を呼び、目が溶けた様に泣きじゃくる始末。 結局、ロバンソンの哀願に負けて、同居を許すことに。 ガスパールとロバンソンの仕事は、昼は廃屋の修繕に当り、 2人は昔錠前屋ということでどんな扉も空けてしまえる才能を生かして、 夜は泥棒稼業。 お金持ちで幸福に満たされている家に忍び込んでは、 冷蔵庫や食料庫の中身を物色していた。 3人の生活にも慣れていよいよ開店の日も迫った矢先、 ロバンソンが幼い娘を連れた目の不自由な美しい若い女性・ローズに一目ぼれ。 物乞いをする彼女たちへの面倒をみる彼に怒るガスパールだったが、 立ち退きを余儀なくされ、 路頭に迷うローズが心労で倒れているのを見つけて病院に連れ出すことに。 助かったローズが自分に想いを寄せた様子を察知したガスパールは、 ロバンソンのことを想う彼として、 2人の幸福のために海辺を後にするのだった。 冒頭の場面、黒いコートの胸に、 「名前はジャンヌ。文無しです、よろしく」と書いた紙切れを 安全ピンで留めた老婆の姿が、 バックで流れるアコーディオンの音色でより哀愁を漂わせて涙を誘いますが、 たまたま車で通りかかったロバンソンに拾われる場面での彼の表情が 何ともいえない素敵さで、思わず惚れてしまいました。 そんな優しい彼とツンデレ気味で良いやつなガスパールの物語ですが、 土地計画による古い街の建物を次々と壊しまくる中で、 廃屋や古い家具を次々と直してカラフルに色を塗っている彼らの行為は、 そのまま彼らの人生を象徴しているかの様で、とても楽しげな雰囲気。 厳しい社会の中にでも楽しさがこんなにもあるんです! と披露している様で、 観ている私としてはとても勇気づけられます。 だからといって、泥棒はけしからんですけど。 最後、ガスパールはロバンソン筆頭に寄せ集めの家族から独り去っていきますが、 親友のためとはいえ、この家族は自分の場所ではなく、 やはり自分にとっての家族は出て行ってしまった妻のみと感じたのでしょうね。 ロバンソンと老婆、そして若い未亡人と娘の過去に振り返らずして 前向きに進む姿をみて、今だ後ろ向きな彼としては居心地が悪くなったのかも。 それはそれで孤独だけど気ままに生きていく人生も悪くないなと思わせる感じが、 同じ様に感じている私にとって、とても心強くなります。 あと、この老婆・ジャンヌの存在。 彼女は男2人の役に立てばといろいろ手伝うのですが、失敗ばかり。 でも彼女が居ることで、男2人の優しさが増長していく様は、 フェデリコ・フェリーニ監督作品「道」のジェルソミーナを思い出しました。 またしても、邦題が陳腐。 原題の「ガスパールとロバンソン」のままで良いと思うのですが、 いかがでしょうか。 それにしても、なんと心温まる映画なのでしょう。 今の世の中にウンザリしている人にとっては、 絶対おススメな映画です。 PR