2012/04/29 Category : サ行 L'Auberge Espagnole 2002 セドリック・クラピッシュ監督作品「スパニッシュ・アパートメント」について パリで暮らすエリート大学生・グザヴィエは、卒業を来年に控えた25歳の青年。 父親のコネを使って面会した役所の大物の勧めに従い、 就職の内定を確実にするため、スペインのバルセロナへ留学することに。 始めは母親に紹介されたアパートへ向かうも、環境が悪かったため、 空港で知り合った神経科医・ジャンの部屋に宿泊しつつ、アパートを探す。 ついにグザヴィエが見つけたのは、イタリア人の陽気なアレッサンドロ、 ドイツ人の生真面目で神経質なトビアス、イギリス人のお茶目なウェンディ、 デンマーク人の好青年だが女にだらしのないラース、 スペイン人の明朗活発なソレダが 共同で暮らすアパート "ローベルジュ・エスパニョール" 。 そこにグザヴィエが大学で知り合ったベルギー人の姉御肌なイザベルも加わり、 それぞれ異なる文化がひしめき合うだけにまさに混乱のるつぼと化すものの、 楽しい賑やかな生活が始まった。 グザヴィエはパリ在住の恋人・マルティーヌがいるにもかかわらず、 イザベルに心惹かれるも、彼女はレズビアンだった。 一方、ジャンの妻であるアンヌはスペインに馴染めず、言葉も話せず、 そして夫は仕事で忙しく構ってくれないと孤独感を募らせていたが、 唯一優しくしてくれるグザヴィエと時間を作っては一緒に過ごすうちに、 とうとう不倫の関係を持ってしまう。 若気の至りとはいえ、なんとも気の多い彼だが、 後になってマルティーヌと別れるきっかけの1つとなってしまう。 やがてウェンディのおバカで無邪気な弟・ウィリアムがアパートにやって来て、 平気で民族差別の発言をいってしまったりして皆の反感を買ったり、 いろいろ楽しいことや大変なことがいくつかあって、 あっという間の1年が終わる。 パリへ帰国したグザヴィエは、心に大きな変化が起きていた。 役所への出勤初日に、建物から飛び出し、 作家になるという夢に向かって走り出していくのだった。 人妻との恋愛や、国籍も人種も違うルームメイトたちとのエピソードを 豊富に散りばめられた、とってもインターナショナルな青春物語です。 この映画を観ると、 私が美術学校を卒業してそのままデザイナーの道に進むことを その時点での自分が上手くやっていけるか、 本当にその道で納得できるのかを躊躇して、 山のリゾートバイトを始めた頃を思い出します。 (認めたくないものだな、自分自身の若さゆえの過ちというものを....) そこでは日本全国から来た同じ世代の若者が1つの建物にて、 仕事を軸に衣食住を共にして生活しました。 いろいろ面倒であったりもしましたが、 今思い出すといろいろ社会というものを学んで、 考え様によってはさほど怖いものではないものだなと少し強くなったり、 運良く気の好い奴らばかりでしたので、なかなか楽しい時間を過ごせたなと 良い印象ばかりが出てきます。 グザヴィエもそうだったに違いありません。 あの不思議な暮らしぶりがとても魅力的に描かれていたせいか、 観ているこっちまで引き込まれてしまったものだから、 最後のみんなと別れてフランスに帰る場面はかなり切なくなってしまいました。 それは割とあっさりした感じでしたが、それが凄く良かったです。 社会に入り込んで忙しく仕事に追われてしまうと人との繋がりが疎かになって いつしか人間関係にウンザリしてしまう今日ですが、 上手くいかない状況に対して他人のせいにしてきたけど、 世間の流れに飲まれ過ぎて 自分自身を見失っていることに問題があったのでは? とか、 自分ばかりを先行してきたけど、 もっと他人の気持ちも考えるべきなのでは? とか、 いろいろ振り返らせてくれる良い作品です。 ちなみに、30歳になったグザヴィエの続編があるそうなんですが、 凄く気になるのですけど、近所のレンタル屋にはなくて..... でもあれから彼は上手くやってると思っていたい私としては、 観るのが怖いなぁ。 PR
2012/04/27 Category : ラ行 RED 2010 ロベルト・シュヴェンケ監督作品「レッド」について フランクは元・CIAの腕利きのエージェント。 現在は引退し、田舎で1人のんびりと平和に暮らしていた。 彼の唯一の楽しみといえば、年金支払い担当のサラと電話で話すこと。 彼女も電話口ではまんざらでもない様子。 次第に彼は彼女に恋心を抱くのだった。 ある夜更け、家に武装した何者かがフランクの自宅に侵入・襲撃するも、 彼はこれをあっさり片付け、更には外で銃弾を放つ敵もかたなく葬り去る。 サラと何度も電話で話したことで彼女にも危険が及ぶと察知した彼は、 彼女の家へと向かい、直接事情を話すものの、 あまりの非現実的な話で全く信じてもらえない。 その間にも次々と敵が襲いかかるので、彼女を無理矢理に同行させる。 元・CIA仲間で今は老人ホームで暮らしているジョーの協力により、 襲撃した敵がCIAで、 かつてのある作戦に関わりのある者たちが 次々と殺されていることを知ることに。 そこで彼はかつての元・CIA仲間であるジョーやマーヴィン、 元・MI6の名狙撃手であったヴィクトリア、 そして当時敵としてやり合ったロシアの元スパイと共に 現・CIAがひた隠しにする陰謀に立ち向かうことに...... この映画のタイトルの「RED」は、 "Retired(引退した)" "Extremely(超)" "Dangerous(危険人物)" の略ということで、 ある事件をきっかけにそんなお年寄りの凄腕たちを甦らせた物語です。 刺激があり過ぎる非日常的なかつての生活に慣れきった彼らにとって、 平穏無事な生活はけっこう窮屈だったのか、 その鬱憤を晴らすべくの暴走が、 「年寄りだからといっていい気になるなよ〜っ!!」と言わんばかりに、 ドンパチドンパチとド派手に繰り出す彼らの反撃は かなりスカッとさせてくれます。 単なるスパイ・アクションと思いきや、年寄りならではの、 エスプリに富んだジョークや 大人のロマンスを見せてくれる粋なエピソードが満載で、 最後まで目が離せませんでした。 ”無敵の爺さん" フランクに扮したブルース・ウィリスを筆頭に、 モーガン・フリーマン、ジョン・マルコヴィッチ、ブライアン・コックス、 リチャード・ドレイファスといった 超名優のゴージャスなオンパレードさにはビックリ! 芸達者なそれぞれが余裕ある演技でもって楽しんでいるのが凄く伝わってきます。 そして、ヘレン・ミレンの華麗な純白のドレス姿で 豪快に機関銃をぶっ放しまくる場面は、 もう格好好過ぎて目から鱗状態です。 そんな大物揃いに対して1人突っ走る 現・CIAエージェントのウィリアムに扮したカール・アーバンが 敵ながらも逆に応援したくなる魅力満載で惚れ直しました。 そんなこの映画、ここ最近のアクションものの映画では ピカイチなんじゃないでしょうか。 かなり面白いのでおススメです。
2012/04/26 Category : サ行 Shadow Boxer 2005 リー・ダニエルズ監督作品「サイレンサー」について 初老の美しい白人女性・ローズとマッチョな黒人青年・マイキーは殺し屋。 元々マイキーの父とパートナーを組んでいたローズは彼が死んだことで 独りぼっちになったマイキーを養い、 いつしか、いろいろな意味でパートナーに。 マイキーにとってローズは母であり、殺し屋のパートナーであり、 そして恋人だった。 そんなローズは末期の癌に侵され、余命が長くないことを感じ、 次の依頼が終わったらマイキーと2人で、 どこか遠くで余生を送ろうと思っていた。 ある犯罪組織のボス・クレイトンから舞い込んだその依頼は、 クレイトン自身の妻・ヴィッキーの暗殺だった。 彼は出産間近の妻の不貞を疑ったのだ。 2人の殺し屋はクレイトンの留守に屋敷に侵入し、 いつもの様にマイキーは護衛を次々と殺していく。 一方、ヴィッキーの元に向かったローズは、いざ銃口を向けた瞬間に、 彼女が破水するのを見て撃つことができず、自分の手で赤ん坊を取り上げる。 そしてマイキーの反対を制止して、 ヴィッキーと産まれたばかりのアンソニーを連れ出し、 モーテルに旧知の医者を呼び出して産後の処置をさせるのだった。 それからクレイトンから隠れる様に、遠く離れた自然の中に家を構え、 奇妙な4人の生活が始まった。 1年後のアンソニーの誕生日、死期を悟ったローズは、 「自分の死後はヴィッキーに従う様に」とマイキーにある願いを託した。 それから2人は激しく愛しあい、絶頂の最中にローズは息を引き取る。 彼女の死をきっかけにヴィッキーは、 今までヤクザな男の妻として堕落していた己を振り返り、 息子のための養育と自身のスキルアップのために街に移ることを提案、 マイキーはローズの遺言通りに彼女に従う。 数年後、アンソニーを我が息子の様に可愛いがるマイキーの元に、 ある殺しの依頼が舞い込んでくる。 いつもの様に伝達係の車いすの男から 依頼金と標的の写真が入った封筒を渡された。 その標的として写っていたのはヴィッキーとアンソニー、 そしてマイキー自身..... とあるところから情報が漏れ、 元妻が生きていることを知ったクレイトンによるものだった。 マイキーが自宅に駆けつけると、 数人の男とクレイトンがヴィッキーとアンソニーを拘束していた。 為す術もなく暴行されるマイキーだが、 一瞬の隙をついて男たちを倒すものの、 クレイトンに銃口を向けられてしまう。 すると意外な人が.... この殺し屋2人には歳の差があり、母親でもあった時期がありと、 とても複雑な男と女の関係ですが、それだけ他人には目もくれずに ずっと2人ぼっちで生きてきたからこその絆の深さがうかがえて、 何だか切なくなります。 (職業も殺し屋ですし、仕方がなかったのかもしれませんが) だからこそ、殺し屋にとってはやってはいけない 「標的を匿う」という行為に走ったローズに対して、 嫌々ながらも賛同できたのでしょうね。 今までクールに過ごして、 この時とばかりに最初で最後である最愛の人からの我がままですから。 ローズが亡くなり、 標的とされていたものとその息子と一緒に過ごすことによって、 非情な殺し屋気質から普通の男に変わっていく過程がとても朗らかで、 観ている私も平和な良い気分になるものの、 同時に殺し屋として少しずつ感覚が鈍っていくマイキー。 暇さえあればシャドウ・ボクサーさながら独り打ちする彼でしたが、 単に体を鍛えるとか、堪ったストレス発散のためにやっていたのが、 そんな内秘めていた自分の人間性がどんどん溢れ出してきたことで、 罪深く感じる自分に対してそれを打ち消すべく打ちまくる。 それで取りあえずは抑えてこれました。 しかし、アンソニーが6歳となり、共に打ち合う遊びをする頃になると、 ある標的の依頼で殺しは実行するものの、その殺した男に子供がいたのを知り、 罪悪感に苛まれる様になってしまっていて、もうこの稼業を潮時にするか、 ヴィッキーとアンソニーの元から姿を消すか、自分自身に選択を問いかけます。 答えは、「ここに(2人と共に)居たい」。 そして、クレイトンに秘密がバレて自分たちが標的となってしまうのですが、 その後の衝撃的な結末に対して、 やっぱり人を殺すことって罪だよな〜と誰しもが思うはずです。 重い悪霊みたいなものを自分で断ち切るつもりが断ち切れずに 受け継がれてしまったのだから。 さて、原題は “シャドウ・ボクサー” で、 そんなラストを暗示するとても優れたタイトルなのに、 何故、"サイレンサー” と変えたのか、その意図が私には分かりません。 確かにマイキーとローズが稼業で 主に使用していたのがサイレンサー付きの拳銃でしたけど、 この映画は殺し屋としての主人公がメインというより、 人との触れ合いで移り変わっていく流れがメインな人間ドラマであって、 訴求力としては日本版タイトルに分があるかもですけど、 あまりに安直過ぎな気が.... 私としてはこのタイトルは違うと思います。 この映画を観て感じたことは、 いくらクールに生きても所詮、人間なんだなーといいつつ、 最後がハッピーでもなく、アンハッピーでもないというものだけに、 何かしらじわじわと後からやってくる不思議な余韻が残りました。 主役のマイキー扮したキューバ・グッディング・Jrの 品のある抑えた演技はピカイチでしたが、 なんといっても、ローズに扮したヘレン・ミレンの 圧倒的な存在感はもう驚嘆もので、 さすがアカデミー主演女優賞を取るだけの素晴らしい女優です。 あとクレイン扮したスティーヴン・ドーフの キレやすい悪者の演技はピカピカのイチ番です。 自分の部屋に女を呼んでガンガンに責めまくっていた場面は ハードポルノさながらでした。 修正が入っているとはいえ、 バッチリ局部が丸見えだったのにはビックリ(嬉しい)! そして、ヴィッキーのビッチな親友に扮したメイシー・グレイがもう、 いい味出しまくりで、彼女の楽曲は大好きなんですけど、 演技も面白いなーと、 これまたビックリしました。 無駄に裸(やたらと男性ヌードが満載なので監督はゲイ?)や、 生々し過ぎるSEXをいたしている場面 (ローズ最期のソレは表情アップとかにしてほしかった)、 BGMの音楽が今イチな上、 こんな素敵な俳優が揃っているのに何か物足りないのが残念ですが、 一見の価値はあります。