2012/04/26 Category : サ行 Shadow Boxer 2005 リー・ダニエルズ監督作品「サイレンサー」について 初老の美しい白人女性・ローズとマッチョな黒人青年・マイキーは殺し屋。 元々マイキーの父とパートナーを組んでいたローズは彼が死んだことで 独りぼっちになったマイキーを養い、 いつしか、いろいろな意味でパートナーに。 マイキーにとってローズは母であり、殺し屋のパートナーであり、 そして恋人だった。 そんなローズは末期の癌に侵され、余命が長くないことを感じ、 次の依頼が終わったらマイキーと2人で、 どこか遠くで余生を送ろうと思っていた。 ある犯罪組織のボス・クレイトンから舞い込んだその依頼は、 クレイトン自身の妻・ヴィッキーの暗殺だった。 彼は出産間近の妻の不貞を疑ったのだ。 2人の殺し屋はクレイトンの留守に屋敷に侵入し、 いつもの様にマイキーは護衛を次々と殺していく。 一方、ヴィッキーの元に向かったローズは、いざ銃口を向けた瞬間に、 彼女が破水するのを見て撃つことができず、自分の手で赤ん坊を取り上げる。 そしてマイキーの反対を制止して、 ヴィッキーと産まれたばかりのアンソニーを連れ出し、 モーテルに旧知の医者を呼び出して産後の処置をさせるのだった。 それからクレイトンから隠れる様に、遠く離れた自然の中に家を構え、 奇妙な4人の生活が始まった。 1年後のアンソニーの誕生日、死期を悟ったローズは、 「自分の死後はヴィッキーに従う様に」とマイキーにある願いを託した。 それから2人は激しく愛しあい、絶頂の最中にローズは息を引き取る。 彼女の死をきっかけにヴィッキーは、 今までヤクザな男の妻として堕落していた己を振り返り、 息子のための養育と自身のスキルアップのために街に移ることを提案、 マイキーはローズの遺言通りに彼女に従う。 数年後、アンソニーを我が息子の様に可愛いがるマイキーの元に、 ある殺しの依頼が舞い込んでくる。 いつもの様に伝達係の車いすの男から 依頼金と標的の写真が入った封筒を渡された。 その標的として写っていたのはヴィッキーとアンソニー、 そしてマイキー自身..... とあるところから情報が漏れ、 元妻が生きていることを知ったクレイトンによるものだった。 マイキーが自宅に駆けつけると、 数人の男とクレイトンがヴィッキーとアンソニーを拘束していた。 為す術もなく暴行されるマイキーだが、 一瞬の隙をついて男たちを倒すものの、 クレイトンに銃口を向けられてしまう。 すると意外な人が.... この殺し屋2人には歳の差があり、母親でもあった時期がありと、 とても複雑な男と女の関係ですが、それだけ他人には目もくれずに ずっと2人ぼっちで生きてきたからこその絆の深さがうかがえて、 何だか切なくなります。 (職業も殺し屋ですし、仕方がなかったのかもしれませんが) だからこそ、殺し屋にとってはやってはいけない 「標的を匿う」という行為に走ったローズに対して、 嫌々ながらも賛同できたのでしょうね。 今までクールに過ごして、 この時とばかりに最初で最後である最愛の人からの我がままですから。 ローズが亡くなり、 標的とされていたものとその息子と一緒に過ごすことによって、 非情な殺し屋気質から普通の男に変わっていく過程がとても朗らかで、 観ている私も平和な良い気分になるものの、 同時に殺し屋として少しずつ感覚が鈍っていくマイキー。 暇さえあればシャドウ・ボクサーさながら独り打ちする彼でしたが、 単に体を鍛えるとか、堪ったストレス発散のためにやっていたのが、 そんな内秘めていた自分の人間性がどんどん溢れ出してきたことで、 罪深く感じる自分に対してそれを打ち消すべく打ちまくる。 それで取りあえずは抑えてこれました。 しかし、アンソニーが6歳となり、共に打ち合う遊びをする頃になると、 ある標的の依頼で殺しは実行するものの、その殺した男に子供がいたのを知り、 罪悪感に苛まれる様になってしまっていて、もうこの稼業を潮時にするか、 ヴィッキーとアンソニーの元から姿を消すか、自分自身に選択を問いかけます。 答えは、「ここに(2人と共に)居たい」。 そして、クレイトンに秘密がバレて自分たちが標的となってしまうのですが、 その後の衝撃的な結末に対して、 やっぱり人を殺すことって罪だよな〜と誰しもが思うはずです。 重い悪霊みたいなものを自分で断ち切るつもりが断ち切れずに 受け継がれてしまったのだから。 さて、原題は “シャドウ・ボクサー” で、 そんなラストを暗示するとても優れたタイトルなのに、 何故、"サイレンサー” と変えたのか、その意図が私には分かりません。 確かにマイキーとローズが稼業で 主に使用していたのがサイレンサー付きの拳銃でしたけど、 この映画は殺し屋としての主人公がメインというより、 人との触れ合いで移り変わっていく流れがメインな人間ドラマであって、 訴求力としては日本版タイトルに分があるかもですけど、 あまりに安直過ぎな気が.... 私としてはこのタイトルは違うと思います。 この映画を観て感じたことは、 いくらクールに生きても所詮、人間なんだなーといいつつ、 最後がハッピーでもなく、アンハッピーでもないというものだけに、 何かしらじわじわと後からやってくる不思議な余韻が残りました。 主役のマイキー扮したキューバ・グッディング・Jrの 品のある抑えた演技はピカイチでしたが、 なんといっても、ローズに扮したヘレン・ミレンの 圧倒的な存在感はもう驚嘆もので、 さすがアカデミー主演女優賞を取るだけの素晴らしい女優です。 あとクレイン扮したスティーヴン・ドーフの キレやすい悪者の演技はピカピカのイチ番です。 自分の部屋に女を呼んでガンガンに責めまくっていた場面は ハードポルノさながらでした。 修正が入っているとはいえ、 バッチリ局部が丸見えだったのにはビックリ(嬉しい)! そして、ヴィッキーのビッチな親友に扮したメイシー・グレイがもう、 いい味出しまくりで、彼女の楽曲は大好きなんですけど、 演技も面白いなーと、 これまたビックリしました。 無駄に裸(やたらと男性ヌードが満載なので監督はゲイ?)や、 生々し過ぎるSEXをいたしている場面 (ローズ最期のソレは表情アップとかにしてほしかった)、 BGMの音楽が今イチな上、 こんな素敵な俳優が揃っているのに何か物足りないのが残念ですが、 一見の価値はあります。 PR