2011/09/04 Category : 日本映画 Pistol Opera 2001 鈴木清順監督作品「ピストルオペラ」について 拳銃を「あたしの男」と呼ぶ殺し屋の女、 殺し屋組織「ギルド」の番付NO.3である通称:野良猫が主人公。 ある日、同ギルドの番付NO.2の昼行灯の萬が殺された。 同じ頃、野良猫は組織の代理人・上京小夜子から殺しの依頼を受ける。 しかし連絡の行き違いから、 彼女は別の幹部(通称:生活指導の先生)を殺してしまうことに。 戸惑う彼女に、 「2人の内、どちらかを消すのが本来の目的ではなかったのか?」 と助言するかつての殺し屋のチャンプ・花田。 当組織「ギルド」の内で何かが起きている様だ。 それから数日後、 上京から組織の番付NO.1である「百眼」の殺しを依頼された野良猫。 クライアントはギルド自身ということで、 どうやら彼が組織内部を揺るがしている様だ。 しかし、「百眼」の正体を誰も知らない。 初めはその依頼を断る野良猫。 だが、他のシングル・ランカーが次々と彼に消されていく事態に、 遂に彼女はその依頼を受けることを決意する。 謎の少女との出会い。 同組織の殺し屋に命を狙われる野良猫。 数々の戦いの末、一向に姿を見せない彼に追いつめられていくも、 ようやく彼を仕留めることに成功する。 ところが、「百眼」と名乗る彼は別人だった。 実は、百眼とは上京であり、 全ては彼女が自らの引退の花道を華々しく飾るために、 自分を殺してくれる最強の殺し屋を求めて、 殺し屋たちを戦わせていたゲームだったのだ。 それを知った野良猫は、 世界恐怖博覧会2の会場で上京と華麗な銃撃戦を展開。 そして見事、彼女を仕留めることに成功する。 だが、こうして番付NO.1に輝いた野良猫をチャンプの座に返り咲こうと目論む 花田の銃弾が彼女を襲うも、能力の差は歴然。 彼女は簡単に交わしてしまう。 しかし、一連の出来事により、 殺し屋稼業を続けるにあたって空しく感じてしまった野良猫は、 花田の眼前で自らの手で、自らの命を奪うのであった。 東京駅の屋根を沢田研二扮する 殺し屋(NO.2の昼行灯の萬)が転げ落ちる冒頭から、 最後に至るまで、ゾクゾクするほど斬新な映像美が目を奪われ続けます。 江角マキコ扮する番付NO.3の野良猫の殺しの道具である 拳銃を使った自慰する場面や 山口小夜子扮する上京の暗黒舞踏の白塗りの男たちを侍らせてでの 妖艶な死に様など、 もの凄く遠回しでアヴァンギャルドな芸術性に満ちたエロティシズム。 遊び心満載な劇画的外連味のセリフ廻しや演技。 そんな魅力が詰まった日本の鈴木清順氏ならではの 素晴らしい映画です。 江角マキコと山口小夜子から醸し出す「女の色気」というものが あまりにも高嶺過ぎて、 別の次元を覗きみている様な、なんともいえない印象があります。 むしろ、武器調達人・胡蝶蘭扮する加藤治子や 野良猫のばあや・りん扮する樹木希林の方に それを感じてしまうという不思議さです。 この彼女たちがそれぞれ「夢」について語るエピソードがあるのですが、 それが目から鱗、何故か鳥肌が立ってしまうのでした。 胡蝶蘭の夢。 また三島さんの夢を見ましたのよ。 夢の中の三島さんは何故かホッカムリをしているのでございます。 元々、私は三島さんの小説が好きで、ファンでございました。 あの方、自決したでしょ、市ヶ谷の自衛隊で。 そうなんでございますよ。 お気の毒でなんとか、元の三島さんに戻したいと、 懸命に首を肉体に縫い付けるのでございます。 最初は絹糸を使いました。 でも、首は呆気なく落ちてしまう。 タコ糸、釣り糸、三味線の糸と、いろいろ試しても、 情けないほど首は取れてしまいますの。 針金まで使いましたのに、コロリと。 私の力、真心でも、詮無いことでございますのかしら。 上京の夢。 子供の頃、 デパートの楊枝の先についた小さな旗を集めるのが好きでした。 今でもあらゆる国の旗をみると、胸にジーンとくるのです。 映画「カルメン、故郷に帰る」で、 アメリカ気触れの2人の踊り子の彼方の向こうに 日の丸が翩翻と翻るのを観た時、 涙が止めどもなく流れましたわ。 ....それが夢でも。 二人の向こうに花火が上がり、弾けたかと思うと、 日の丸、星条旗、トリコロール、ユニオンジャックと、 次々に青空に広がるのですが、どの旗も、どの旗も、 血まみれ、泥まみれ、糞まみれ。 ....ごめんなさい、はしたない言葉を使って。 でも、本当に臭い、臭い血の匂い、ヘドロの匂い、 腐肉の匂いがするのよ。 火に焼かれ落ちてくる旗も、 ドイツ、ロシア、イタリア、スペイン、カナダ.... 一つとて、まともな旗は有りませんのよ。 どういう事なのでしょう。 踊り子たちは陽気にカンカンを踊っています。 ....嫌の予感のする夢で、もう見まい、見まいと思っても、 ついまた見てしまうのですよ。 りんの夢。 浜辺に鯨よりも大きな金魚が打ち上げられるのであります。 朱色の綺麗な夏の日差しに、肉体を炙られて、苦しそうにのたうって。 人は大勢居ても誰もどうすることも出来ず、 それどころか、皆が死にかけている金魚に見とれているのです。 日が沈む頃、金魚は死にました。 空が血を流したような夕焼けの下で、太陽の光を反射するその鱗は、 金、朱色、臙脂、橙、鴇色、蘇芳、荒朱、茜、影の摺墨...とっても綺麗。 私は暗くなるまで、ずぅと眺めておりました。 ....ですが、日が落ちると、あれほど艶々していた鱗から光が失せて、 松毬みたいにささくれだしたのです。 びっしりとフナムシに集られて、干涸びた目は落ち窪んで虚ろな穴の様。 穴の奥からありとあらゆる災いが溢れ出していきそうなほどに、 それは不吉で、禍々しくて。 そうなると何も金魚を見ようとはいたしません。 それでも、金魚の死体はそこに在ることを主張し続けるのでございます。 その圧倒的な大きさによって、朝な夕なに嫌がおうでも、 死んだ金魚が目に入る。 お分かりですか? 死がすぐそこに在る暮らし。 夢とはいえ、それは不思議に、心休まるものだったのでございます。 PR