2011/03/29 Category : 日本映画 昭和歌謡大全集 2003 篠原哲雄監督作品「昭和歌謡大全集」について 東京都下の調布市に住む6人の若い男、 イシハラ、ノブエ、ヤノ、スギヤマ、カトウ、スギオカらは、 人生に何の目的もなく、 ぼんやり日々を生きる若い専門学生の仲間たち。 彼らの唯一の楽しみは、定期的にカラオケ・パーティーを開くこと。 そこで6人が歌うのは流行のポップスではなく、 昭和の歌謡曲であった。 音響機材からコスプレにまでこだわった 筋金入りのパフォーマンスを内輪で楽しんでいる。 ある日、極度に警戒心が強くいつもナイフを持ち歩いているスギオカが、 道ですれ違った買い物帰りの女性にブチ切れて、 喉を引き裂き、殺してしまう。 その惨殺された女性の名前はヤナギモトミドリ。 彼女は「ミドリ」という同名の離婚経験者で構成されるサークル 「ミドリ会」に入っていた。 イワタミドリ、ヘンミミドリ、スズキミドリ、 タケウチミドリ、トミヤマミドリら、ミドリ会のメンバーは、 これは自分たちを馬鹿にしたガキの犯行だ、と激怒。 死んだヤナギモトを弔うために、 また踏みつけられた自分たちのプライドを回復するために、 独自の調査を開始し、犯人の存在を突き止め、復讐することを誓う。 こうして「若者 VS おばさん」の血で血を洗う熾烈な殺し合いの 火蓋が切って落とされたのだった.... 「おばさん」という記号化されたキャラクターは、 漫画、アニメ、バラエティと多方面で面白可笑しく描かれている。 若い女性に色目を使う現金な男への失望が、 開き直った人物像の形成に起因している様に思う。一方、 それに勝るとも劣らない記号化されたキャラクターが 「オタクの若者」である。 もし、そんな二大勢力が生存を賭けて戦ったらどうなるのだろうか? 本作品は題名が示す通り、昭和歌謡の大ヒット曲で章立て構成されている。 「恋の季節」「チャンチキおけさ」「錆びたナイフ」 「白い蝶のサンバ」「骨まで愛して」「アカシアの雨がやむとき」 「星の流れに」「有楽町で逢いましょう」 そして「また逢う日まで」といった、 何処かで耳にしたことのある代表的名曲の数々。 その曲目がキャラクターの心情とシンクロし、 物語の雄弁なる語り部にもなっている。 若者とおばさんが血で血を洗う抗争を繰り広げると云う 荒唐無稽で陰惨な物語を、昭和歌謡が彩ることにより、 異次元の扉が開かれ、摩訶不思議ワールドを確立させている。 現代病とも云える無気力に支配された若者が、 リアルタイムで知らない過去の曲にのめり込み、 カラオケ・パーティに興じる様は実に皮肉が効いている。 対する女性軍団は、比較的、不自由ない生活を送りながらも、 若者にバカにされる屈辱的な日々の鬱憤が澱の様に沈殿。 それが若者との復讐合戦を通して、自信を回復し、 次第に生き生きしてくる様子が興味深いところである。 こういった、ある意味、世間にはじかれている2つの集団の戦いが どんどんエスカレートしていき、 無辜の民を巻き込む大スケールの発展するも、これまた皮肉が効いている。 妙なカタルシスに覆われる最後の場面には賛否両論分かれると思うが、 この現代において、私は有りだと思う。 若者軍団に扮するは、 松田龍平、安藤政信、池内博之、斉藤陽一郎、村田允、近藤公園。 スタイリッシュかつ、フレッシュ感溢れる豪華な顔ぶれである。 中でも松田龍平の浮世離れした存在感が凄くピッタリ嵌まっている感じ。 その虚無的な面立ちは、完璧に本作の世界観にマッチしている。 あと「チャンチキおけさ」にのせた安藤政信の死にっぷりは、 まさに絶妙で、役者魂を感じさせる名場面と云えよう。 女性軍団に扮するは、 樋口可南子、岸本加世子、森尾由美、細川ふみえ、鈴木砂羽、 そして始めに殺されてしまう内田春菊。 こちらも若者軍団に勝るとも劣らない豪華な顔ぶれである。 はっきりいって、思わず「おばさん?」と疑う面子だが、 そこは芸達者な女優陣。 観ている内に不思議と気にならなくなってくるのだから、 プロフェッショナルな仕事っぷりである。 リーダーとしてカリスマ性を発揮する樋口可南子と、 副ボス的存在の岸本加世子、孤高の悩める女の鈴木砂羽、 何処か抜けている細川ふみえ、 ほんわかとサバサバしたムードを併せ持つ森尾由美ということで、 若者軍団よりキャラクター分けがしっかりしており、 そのバランスは上手いなの一言に尽きる。 加えて脇役に、「おばさん」嫌いな金物屋の店主に扮する原田芳雄、 自転車屋の主人に扮するミッキー・カーチスが 妙演技で過激さと笑いの混交した物語に彩りを添える。 また、狂気の世界の案内人の様に花びら女子短大生・スガコに扮する 市川実和子が不気味な雰囲気を醸し出している。 こんな無残で不条理な殺人の数々は新聞ネタに事欠かないのが現在の情況。 物語の結末は突拍子もない展開だが、 元々正気の沙汰とは思えないバトル故に ここまでしても全然変ではないなと思わないでもない。 もう、それは怨恨や営利目的云々という、 それなりの「動機」あっての殺人が、 もはや通じない世の中になっているのだと、 新ためて気付かされるからだ。 個人的に鈴木砂羽扮するイワタミドリが 仲間とカラオケショップで盛り上がってる最中、 二枚目の若いホストに言い寄られて、 トイレの中での情事場面があるのだが、 愛撫の最中にイワタの肌にくっついている ピップエレキバンをみつけたとたん、 バカにされる。 若さと老いの狭間にある女にとって、耐え難い屈辱がかなり伺える。 若さへの嫉妬、限りない自信喪失感は人事ではないだけに すごくすごく共感を覚えてしまった。 この瞬間、私は「ミドリ会」の支持にまわったのはいうまでもない。 PR